第8号目の今回はデザイン分野のトップに位置する有料ニュースレターを事例としてとりあげた。最初そのニュースレターを読んだ時、その内容からして「トップにカテゴライズされているのはなんか表示の間違いかな?」と思ったほどだった。しかしそういう考え方こそがそもそもの間違いだったことに気がついた。
このニュースレターはコンテンツのクリエイター、自分のファンを得たい人、課金モデルを成り立たせたい人に向けて書いている。
個人でニュースレターの運営に成功している例を毎回ひとつとりあげ、そのコンテンツを徹底的に調べてビジネスモデルの仕組みから、なぜそんなにウケているのか、を独自分析してレポートする。あなたがクリエイターの方ならとても参考になるはず。
🧨 もくじ
誰かのトップ3コンテンツに入ること
最大でいくつ購読できるか?
ニッチこそが有利にする
【他人のニュースレターを勝手に分析】木工家具作りでデザイン部門のトップに位置する理由
著者はプロの家具職人
記事の内容は家具作りというより
家具を作ることの精神性
超シンプルな有料プラン
有益なだけの情報は飽きられる
読者ターゲットはコアのネットユーザーではなく
決してメジャーな分野ではない
17年間も無料ブログで発信し続けた後
みなさんのご意見をお聞かせください
みなさんからのコメントとその回答
匿名のご質問(マシュマロから)
匿名のコメント(マシュマロから)
匿名のコメント2(マシュマロから)
あなたがクリエイターならぜひ購読
🏆 誰かのトップ3コンテンツに入ること
クリエイターにとってニュースレターの登場が有利に響いていることのひとつが要は「誰かのトップ3コンテンツに入りさえすれば成功できる」という点がある。
ポイントはみんなのトップ3ではなく、たくさんの人達のトップ3でもなく、「誰かのトップ3」ということ。これはブログやSNSでいまいちフォロワー数が獲得できなかった人でも、というかそういう人にこそチャンスがある。
はじめてニュースレターというメディアを知った方向けにざっくり説明
ニュースレターとはブログにメールマガジンとサブスク機能を合わせたメディア。英語圏で爆発的に普及し多くのクリエイターにとっての収益源となっている。最終的には読者にメールを通してコンテンツが配信される仕組みになっている。
🫣 最大でいくつ購読できるか?
通常、人が有料ニュースレターを購読する時、最大でいくつぐらいを購読できるか?10個なんて多すぎる。5個でも多い。有料ニュースレターが5個もあったら「どれか削ろうかな」と考えるだろう。せいぜい3つが限界だ。そこに無料のニュースレターも合わせればだいたい10個ぐらいだろう。
人が1日に読める文章の量には限りがあるし、基本的にニュースレターの情報は濃いし量も比較的多い。サラっと読めるような内容ではなく、もっとじっくり読むような内容だ。
ゆえにニュースレターで成功したければ、それがどんな分野であってもトップ3に入らなければならない。最大限でもひとりの読者に購読してもらえるのは3つまでだからだ。
例えばあなたがニュースレターを発行する際に内容とテーマを「ビジネス系」としたとする。するとネット上にはホリエモンとかのビジネス界の百戦錬磨のスゴ腕の人達がコンテンツを提供している。そういう中でトップ3に入るのは至難の業になる。
よほどの知名度とそれ相応の知識、ビジネス経験の持ち主でなければトップ3なんて無理だろう。
なのでほとんど競合が存在しないニッチを攻めるのが最初のセオリーになる。
🐅 ニッチこそが有利にする
実際に英語圏のニュースレター全般を見渡してみるとトップのニュースレター発行者ほど「え?そんなニッチな内容でいいのか?」というぐらいに狭い領域をテーマにしたのがある。
そんな風に「こんなニッチな分野でコンテンツを提供できるのは地球上にあたしだけよね」と言えるぐらいであれば確実にトップ3に入ることができる。成熟したネット社会においてはどんなにニッチな分野でも、そんなコンテンツを求める人達が必ず居る。ニッチほどそれを求めるニーズはより深くなる。
さらに今の時点でクリエイターに有利なのは「現状、ほどんどの人はまだニュースレターなんて購読していない」ということ。あっても企業が広告のようにウザく送ってくる広告メルマガぐらい。まだまだユーザーのニュースレター3枠には空きがある。空きがある間にニッチを攻めて3枠のひとつを取ってしまうのはいい戦略になる。
ニッチ分野を攻めることはとても有効な手段であり、かつ誰にでも応用が可能なこと。そんな例を示すのが今回の分析レポートになる。
【他人のニュースレターを勝手に分析】木工家具作りでデザイン部門のトップに位置する理由
今回とりあげたのはThe American Peasant(アメリカの農民)。これは木工家具作りをテーマにしたニュースレターになる。プラットフォームはSubstackが使われている。Substackはカテゴリーごとに分けられていて、デザインカテゴリーのナンバー1有料購読者数がこの「アメリカの農民」になっている。
有料購読者数はten thousands of paid subscriber(数万の有料購読者数)となっていて、ザっと計算しただけでも毎月すごい収益になっていることが分かる。
著者のChristopher Schwarzさん
🪑 著者はプロの家具職人
著者のクリスさんはプロの家具職人。自宅にある工房で木製の家具を作りつつ、ニュースレターの運営、本の出版を行っている。
ニュースレターを読めばおそらくほとんどの読者が感じることがある。それはクリスさんはただの家具職人ではない、ということ。家具を作ることを通して感じる思いを文章にして表現するのが異様に上手い。さすがに本も出版していることもあり、彼は職人であり物語を語る作家のようでもある。
もし英語の勉強をしている方がいたらぜひ購読してみてはいかがだろうか。英語ってこういう風に書くといいよね、とお手本にもなる。
🍉 記事の内容は家具作りというより
基本のテーマは木工家具になる。写真もふんだんに使って、作りかけの木工家具、完成した美しい木工家具が見れる。
しかし記事内容はそんな家具作りを丁寧に教えてくれる部分はあまり無い。記事のほとんどはDYIなどで自分で木を使って家具を作る際にある心の有り様を描いた内容だ。
読者もおそらくDYIや家具作りが好きな人達でそういう読者達が「あー木で作ってるとそういうことってあるよねー」という気持ちを詰め込んでいる。
つまり天然の木を使って家具を作ることを、そうして作った家具を誰かに使ってもらうことを描いたエッセイだ。
引用 The American Peasantより
😐 家具を作ることの精神性
ある記事で家具を作ることの精神性について言及されていた。
クリス氏は天然の木を相手にすること。家具作りの過程において木の香りを感じつつ作業をすること。作りあげた家具を自分の家族が使う様子を眺めること。それら全てが尊い瞬間であることを説明していた。
しかしそうした家具作りがセラピーの効果がある、なんて煽ることの危険性についても言及している。
ただそうした精神性を語ってしまうぐらいに木工作業で木の特性に向かい合うことにはなにかがあるようだ。
💰 超シンプルな有料プラン
課金体系は何も特別なことはしていない。各記事に有料購読者だけが読める部分があり、月に5ドルを課金すると読める。コメントもできる。ただそれだけ。
Substackにあるニュースレターのほとんどが採用している有料プランをそのまま適用している。
ここまででザッとではあるが「アメリカの農民」のコンテンツ内容をだいたい把握いただけたと思う。
以下にこの「アメリカの農民」がなぜSubstackのデザイン部門でナンバー1の有料購読者数を誇るのかの私なりの分析結果を書いた。
🎲 有益なだけの情報は飽きられる
最初に「アメリカの農民」を見た時に「木工家具の作り方を解説しているのかな?」と思っていたが、いい意味でその予想は裏切られた。確かに木工家具の解説をしている部分もあるが、それらがメインコンテンツではない。
むしろそれ以外のがほとんどだ。テーマは木工家具ではあるが、これほど木の切り方や組み合わせ方、DYIの方法を解説していないコンテンツは珍しい。ずっと読んでいく間にそこに人気の秘密があることが分かってきた。
有料ニュースレターはサブスク課金になっている。毎月5ドルの引き落としがあり、読者に飽きられてしまうとそこで解約される。とにかく読者に飽きられてはいけない。
そこで「有益な情報を出す」だけのコンセプトだと飽きられる時期が意外に早くきてしまう。そうした課題解決型のコンテンツは解決さえしてしまえば「もういいや」となってしまうのだ。
木工家具の作り方の例で言えば「だいたい家具作りや道具の使い方が分かったから今月で終わりでいいかな」となってしまう。課題解決型だけだと初回の感動がほぼ最大値で、それ以降は下降線をたどることになる。
「アメリカの農民」のコンテンツは課題解決というよりもほとんどアイデンティティの構築に向かっている。木を相手に家具を作る行為っていいよね、というアイデンティティを読者仲間と共有すること。そうした思いを持つ仲間同士をつなげること。
この方向には限界が無いし、そうしたアイデンティティを心の奥底で感じている読者はずっと購読を続けることになる。
👴🏾 読者ターゲットはコアのネットユーザーではなく
家具作りはある程度の年齢が達してもずっと楽しめる。この「アメリカの農民」のコメント欄をじっくりと見ていくと、読者の年齢層は想定していたよりもかなり高いことが分かってくる。
あるコメントで「私はウィスコンシン州に住んでます。60歳で仕事を引退してから、木工家具作りに目覚めました」とあった。
つまり読者は60歳以上の方になる。そんな人達が実は読者の大多数を占めているようだ。これはSNSでたくさん見られるような若いネット世代とはまったく違う。
そんなコアのネット世代ではない客層を掴むことができているニュースレターはとても強い。なぜならそんなニッチな客層を引き寄せる場所がそもそも少ないし、そうした客層が離れて他に行ってしまう可能性も極めて低いからだ。
「アメリカの農民」以外でその読者達が安心できるコミュニティって他にはほとんど無いのだから。
🏄♂️ 決してメジャーな分野ではない
現代においてデザインと言えばwebやアプリのデザインを示すことが多い。当然ながらそんな分野のニュースレターには競合がめちゃくちゃに多い。「Design Newsletter」でググったら、ウェブ系のデザインをテーマにしたのが何万件もヒットする。読者からするとそんなたくさんの中から選び取ることになる。
だが木工家具のデザインてしかも高品質のコンテンツを発信するニュースレターなんてなかなか無い。木工家具の職人さんはたくさん居るだろう。でもわざわざブログではなくニュースレターまで発行するような人はほぼ居ない。
結果として「アメリカの農民」はSubstackのデザインの分野でトップクラスの有料購読者数を持っている。
つまり売れるニュースレターの作者というのは未開拓の地を見つけてそこに1番最初に旗を立てた人、になる。ひょっとしたら木工家具をテーマにニュースレターを発行している人が他にも居るのかもしれない。でも「アメリカの農民」がその分野では最初に旗を立ててしまっているので、追い越すのは非常に難しいだろう。想定されるターゲット読者のメールボックスはもう「アメリカの農民」で埋まっているのだから。
🧛♂️ 17年間も無料ブログで発信し続けた後
著者のクリス氏はなんと17年も運営し続けたブログがあった。全ての記事は無料で公開されていた。そこで十分なターゲット読者との信頼を築いた上で有料ニュースレターに進出したのだ。
なんとなく始めてみた中途半端なニュースレターとは顧客基盤が全然違う。
逆に言えば17年も続けてもいいマネタイズ方法が見つからなかったブログを置き換えた有料ニュースレターのパワーを証明している、とも言える。
🧗 みなさんのご意見をお聞かせください
正直に言ってこれまで分析したニュースレターの中で「アメリカの農民」が最も分析に時間を取られた。読んでも読んでもなかなか人気の本質が掴めなかったからだ。
それなりに分析記事を書いたが、まだなにか大切なことを見逃しているのでは?と気になっている。
これを今お読みの方は商品やコンテンツの売れてる理由を解析するのが好きな方達だと思う。なのでぜひ「アメリカの農民」を読んでみて、なにか売れてる理由を見つけたらコメントして下さい。
ここでもみなさんとの意見交換がしたいと思ってます。
🧐 みなさんからのコメントとその回答
このニュースレターでは常時みなさんからのご意見とご質問を募集しています。なにかあればぜひください。
匿名のご質問(マシュマロから)
私はフリーランスのグラフィック/WEBデザイナーなのですが、何か事例があれば紹介いただけたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。
ご質問ありがとうございます。今回デザイン系のニュースレターを分析いたしました。
グラフィック/WEBデザインの場合、そのままをテーマにしたのでは競合があまりにも多いようです。そこをもう少し深く掘り下げてニッチを攻めることで十分可能だと思いました。それともうひとつ、私個人としては日本語でグラフィック/WEBデザインのニュースレターをまだ見たことがありません。ブログや本はたくさんあります。でもニュースレターはまだ無い。ということはすごいチャンスですよね。ぜひ「アメリカの農民」のようにまっさきに日本語圏に旗を立てていただければと思います!
匿名のコメント(マシュマロから)
<略>
収益化と言う観点だと、どうしても自分はサロンと比較してしまいます。 たぶん日本人的な資質から「閉鎖的なコミュニティ」をありがたがる傾向があり、ビジネスにつなげやすいと考える傾向にあるのかもしれません。
最後に、自分だったら、という観点ですけれど、どんな国・属性の人が購読しているのかは毎回気になりますね。レビューや紹介サイトがあるなら、どういうタイプの人が取り上げているのか、みたいな洞察があったりすると、読み手としても面白いかなぁと考えました。
・・・まぁ地域単位のPVとかは当然見れないと思うので、レビューの名前が見れるならどこの国の人っぽいかとか、男性女性とか、年寄りっぽいとか、なんとなくの感覚だけでも探りたいですね。私ならすっごく気になったらメールで突撃してみるかもしれません笑 あとは、英語が超適当でも結構売れてる人はいるぞーとか、逆に言語が洗練されているものが上位にあるなら、日本語でも記事はしっかり書かないと当然取れないよね、とか。 毎回そういうポイントを拾っていって、一年ぐらい購読すると、ニュースレターの成功の方程式みたいなものが揃う、みたいな仕組みだと面白いですね。
素晴らしいコメントありがとうございます!
確かにコミュニティ運営は重要ですよね。ぜひ進出したいと思っています。ただこうしたマシュマロで匿名であっても、なかなかご意見をいただけていないのが現状です。おそらく私の書く記事内容に改善の余地があるように感じています。もうちょっと工夫するようにします。
匿名のコメント2(マシュマロから)
ジャバさんのニュースレターではクリエイターと一口に言えど、毎回異なる業界を扱っていることを強みと捉え、ジャバさんご自身で行われているSNSでの発信に、その業界の人に刺さるワードやハッシュタグを含ませることにより、購読の誘引を行うのがいいかなと思いました (可能であれば記事内のワンボタンで読者にも有効なワードを含むシェアを促し、その業界内でのシェアの循環を促す)
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SNSでのシェアについて調べていたのですが、以下の記事ではシェアには幾つかの動機があるとのことです
【役に立つから】 情報に価値があり、面白いからというのがコンテンツをシェアする一番の理由。94%の回答者が、受け手にとって情報が有益かどうかを考えてから情報をシェアすると答えている。
【他人から見た自分を定義するため】 68%の回答者が、自分が他人に思われたい自分を形成できるかどうかを考えてシェアしていると答えている。他人から見られたい自分に有利な情報のみシェアするということになる。
【関係性を維持あるいは深めるため】 78%の回答者が、知人との関係性を維持するために情報をシェアすると答えている。
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ジャバさんの深い知見と調査に裏付けされたニュースレターは、これらのシェアする動機を刺激するのではないでしょうか
シェア・口コミの力は無視できないほどに強いものですから、こうしたアプローチもよいのかなと思います
ありがとうございます!
シェアはずっと意識しているのですが、まだまだ上手くいってないのが現状でした。なのでこのコメントはとても参考になりました。特に「他人から見られたい自分に有利な情報」って意味は分かるんですが、それを作り出すのってすごい難しいですよね。売れてるニュースレターを分析したレポートって「他人から見られたい」にはほど遠い内容であることは確かなので、もうちょっと工夫ができないか考えてみます。
あとYouTubeでよくある「切り抜き」も狙っていきたいです。つまりニュースレターの中の文章のある部分だけを切り抜いて、それに対して「このジャバ・ザなんとかってこんなこと言ってるけど、俺は反対の意見なんだよね」とかでもSNSに投稿していただけるようにしたいです。
ということでシェアボタンです。
🏌️♂️ あなたがクリエイターならぜひ購読
あなたがクリエイターで少しでもニュースレターの発行を考えているのなら、ぜひこの「1万ドル以上を稼ぐ個人サブスクメディアを徹底的に分析したらこうなった」を購読してください。あらゆるニュースレターのノウハウを詰め込んでます。きっと参考になるはず。
ではまた次回にお会いしましょう。まだ未購読の方は次回のニュースレターで会うために購読が必要ですよ!
初めまして。私は東京で家具職人をしております。サブスタックは以前から気になっており、木工のニュースレターを初めてみようと、試しにサブスタックの読者として体験中でした。ジャバさんのニュースレターも興味深く読ませていただいてます。
思いがけず家具職人の記事が紹介されていて、とても参考になりました。お礼を言いたくコメント残させていただきます。ありがとうございました。
これからも記事を楽しみにしております。